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成功物語の輸出

高度成長期の日本で人々を魅了した二つの成功物語がいま、新興国に輸出されようとしている。

一つは「スポ根マンガ」だ。講談社は、1960年代後半に『少年マガジン』に連載され一世を風靡した『巨人の星』を今年、インドのアニメとしてリメイクする。野球ではなくインドの人気スポーツのクリケットに置きかえられるが、貧しい環境に育った主人公が成功をつかむという基本設定は同じで、大リーグボール養成ギブスや星一徹の「ちゃぶ台返し」に当たる設定も盛り込むという。

制作を担当するのは、かつての日本のアニメ版をてがけたトムス・エンタテインメントという会社で、インドのアニメ大手制作会社と組んで制作するらしい。トムス・エンタテインメントのホームページで過去の制作実績を見ると、スポ根マンガの女性版と言うべき『アタックNo.1』のアニメも手がけていた。私のような世代には両方とも懐かしいアニメだ。「思い込んだら試練の道を行くが男のど根性」(『巨人の星』)、「苦しくったって悲しくたってコートの中では平気なの」(『アタックNo.1』)という主題歌は今でも頭の中にこびりついている。

しかし1970年代以降にスポ根マンガは徐々に廃れていく。平均的な生活水準が向上して、「貧しさから這い上がる」という基本設定がリアリティを失っていったからである。養成ギブスやちゃぶ台返しはパロディの格好のネタになっていった。1980年代に『少年サンデー』(小学館)に連載されて人気を博した『タッチ』は、野球を扱っていても実態は「ラブコメ」マンガだった。主人公はもはや下町の貧しい長屋に育つ少年ではなく、中流階級の子弟だ。遠くに輝く星を目指して野球をするのではなく、彼女を甲子園に連れていってあげるために野球をするのである。また、『少年ジャンプ』(集英社)では80~90年代にサッカーマンガの『キャプテン翼』が大ヒットする。こちらは『少年ジャンプ』お得意の「努力・友情・勝利」の公式をあてはめたスポーツマンガで、主人公たちはひたすらサッカーというゲームに打ち込む。そこには生活苦はもとより恋愛の苦悩もない(そのあまりの淡白さにむしろ同性愛的な匂いをかぎつけたのが「やおい」マンガだがそのへんの話はさておこう)。インドでも所得レベルが上がってくれば、やがて『タッチ』や『キャプテン翼』のような物語が求められてくるだろう。講談社の次には、小学館と集英社の出番が来るだろう。日本では10年、20年かかかった変化も、新興国なら5年、10年かもしれない。

さて、新興国に輸出されようとしているもう一つの成功物語は、「住宅双六」である。東急電鉄は、ベトナムのホーチミン市郊外で大規模なニュータウン開発に乗り出すと発表した。地元企業と合弁会社を設立して取り組むという。もし東京で成功させた「多摩田園都市」開発のソフト・ハードを本気で移植するのであれば、それは単なるニュータウン開発に終わるものではないだろう。東急田園都市線沿線の住宅開発は、「第二の世田谷を作る」をコンセプトのもとで進められ、郊外型新中間層の中でも所得水準の高い人たち向けに新しいライフスタイルの舞台を提供した。住宅双六とは京都大学の上田篤が1972年に発表した絵で、出生を「ふりだし」とし、郊外庭付一戸建ての購入を「あがり」とする。収入の増加と家族人員の増加に伴い、徐々に広い家に買い替えていくという高度成長期の幸せ物語を絵にしたものだと言ってもよい。多摩田園都市はその最も輝いている「あがり」だった。

この成功物語も、今日の日本ではかつてほどの輝かしさは持っていない。多摩田園都市は上手く段階的に熟成しているようだが、多くのニュータウンは急速な高齢化に悩んでいる。今の若い人は、郊外よりも下町のほうに魅力を感じるという人がたくさんいる。ベトナムのような新興国でもやがてそういう段階を迎えるだろう。住宅双六とは違うまちづくり、住まいづくりの物語の出番がやってくるだろう。

マンガと都市開発は、国内の人口減少に伴ってマーケットが縮んでいくという点では共通の悩みを持っている。しかし日本はこれまでアジアで最初に高度成長を実現した国として、輸出できる資産を持っている。資産の本質は、本やDVD、あるいは土地建物といった「モノ」ではなく、「モノガタリ」だと思うのである。物語性のある商品に付加価値が宿る。
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