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幸せはお金で買える?

幸福論の中でも、「幸せはお金で買えるか?」という問題は、多くの人の興味をそそるところであろう。この問題が、一個人の人生の選択の問題にとど まらず、一社会の選択の問題になったのは、1970年代初頭のことであった。

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1972年、ブータン王国の国王ジグミ・シンゲ・ワンチュクは「GNP」に対抗して「GNH(Gross National Happiness)=国民総幸福度」を提唱した。1974年にアメリカの経済学者リチャード・イースタリンは、後に「イースタリンの逆説」と呼ばれる研究を発表した。 イースタリンは、所得の上昇と幸福度は必ずしも比例しないことを実証的な証拠をもとに論じた。

第二次大戦後、とくに1950-60年代、西側先進諸国(日本を含む)の経済は大きく成長し、いわゆる「資本主義の黄金時代」を迎える。しかし1973年の石油ショックをへて、70年代以降、先進諸国の成長率は大幅にダウンシフトした。資源・エネルギーの浪費や環境汚 染への批判も高まっていく。そういう時代だからこそ、「経済成長は国民を幸福にするのか」という問題が注目を集めたのだろう。

歴史学者の故・木村尚三郎先生(1930年〜2006年)は、1970年代は時代の大きな曲がり角だとよくおっしゃっていたものだ。木村 先生の本職は西洋中世史だが、20世紀の歴史にも独特の鋭い感覚を持っておられた。ありし日の先生の柔らかい言葉使いをできるだけ再現できるよう に書くと、こんな感じ。

「普通、曲がり角の向こうにはまた真っ直ぐな道が見えて、新しい風景が広がっていくものです。しかし、70年代にはじまっ た曲がり角の先はまだ見えていません。私たちは未だに曲がり切ったとは言えないのです。曲がり角の向こうにどんな風景が広がるのか、まだ誰もわ かっていないと思います。」

以下に示すのは、主要先進諸国,、すなわち欧米および日本の10年ごとのGDP年平均成長率である。

年代   欧米  日本
1920年代 3.8%  3.4%
1930年代 2.0%  6.2%
1940年代 1.8%  -3.8%
1950年代 4.1% 8.4%
1960年代 4.6% 10.4%
1970年代 3.3% 4.6%
1980年代 2.8%  3.9%
1990年代 2.7%  1.1%
2000年代 1.9%  1.3%
資料:Aungus Msddison
注1:GDPは1990 International Geary-Khamis dollarsでの数値
注2:欧州は12か国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、 スイス、英国)

欧米よりも日本のほうが山が高く谷が深いという違いはあるものの、1950-60年代の主要先進国の経済成長率がいかに高かったか、そして、70 年代以降、いかに減速し続けたかということがわかる。

木村先生のおっしゃったとおり、私たちはまだ70年代にはじまった曲がり角の途上にいる。減速傾向の先はどうなるのか。やはり(高度でないにして も)経済成長を目指すべきなのか、別の道を目指すべきなのか。別の道とは何か。曲がり角の向こうの風景はまだ見えない。「お金で幸せを買えるか」 という問いに対する答えも、曲がり角の向こうにあるのだろう。

もちろん、70年代以降、何も前進しなかったわけではない。幸福に関する科学的・実証的な研究は進んでいるし、政策課題としても真剣に議論される ようになった。2010年、ノーベル経済学賞のダニエル・カーネマンは、「イースタリンの逆説」を補正するような研究結果を発表した。年収7万 5000ドル(2012年平均の1ドル=約80円で計算すると約600万円)あたりまでは、収入に比例して幸福度は増大するが、それを超えると上 がらなくなるという研究だ。また、2012年、かつてGNH=国民総幸福度を提唱したブータン国王の息子である新国王の強い要請にこたえるかかたちで、国連が最初の「世界幸福度調査」を発表した。

以下は70年代以降の幸福研究に関する簡単な年表だ。

1972年 ブータン王国の国王ジグミ・シンゲ・ワンチュクが「GNH」を提唱
1974年 アメリカの経済学者リチャード・イースタリンが所得と幸福度の関係を論じた論文を発表(「イースタリンの逆説」)。
1984年 アメリカの心理学者エド・ディーナーが論文「Subjective well-being(主観的幸福度)」を発表
1993年 国連で最初の「人間開発指数」発表
1998年 アメリカの心理学者マーティン・セリグマンが「ポジティブ心理学」創設を提唱
2008年 フランス・サルコジ大統領(当時)が幸福度研究のスティグリッツ委員会設置
2010年 ノーベル経済学賞のダニエル・カーネマンらが「米国民の健康と幸福に関する調査「Gallup-Healthways Well-Being Index」の結果を発表
2012年 国連で最初の「世界幸福度調査」発表

いま、我が国では「成長戦略」が進められている。お金で幸せがどのくらい買えるのか最終的な結論は出ていないが、当たり前なが ら、お金は手段であって目的ではない。経済成長も国民が幸福になるための手段であって目的ではない。問題は成長の中身であり、政策の優先順位であろう。その見極めに、幸福度は大いに役立つだろう。とくに国内需要の分野では国民の幸福度増大に向けて手厚い政策を打つべきだと思う。

幸福度の増大には、モノより体験、結果よりプロセスの役割が大きいことが知られている。たとえば消費生活では旅行などの体験型消費の幸福度が高い。となれば、観光インフラ充実は最優先課題のひとつだ。同様に医療でも、患者の体験の質、いわゆるクオリティ・オブ・ライフを大切にするなら、西洋医学の新薬や最新設備の開発だけでなく、東洋医学との融合を促したい。幸福度は経済成長率を補う重要な物差しになる。
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