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憲法十三条の幸福論

日本国憲法の十三条には、「生命、自由、幸福」の追求が国民の権利として規定されている。これは、「アメリカ独立宣言」(1776年)に由来する文言だ。日本国憲法のベースになったマッカーサー草案にすでにこの文言は見られる(※1)。

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面白いのは、個人の幸福追求権を正々堂々と憲法に掲げているのは日本国憲法くらいかもしれないことだ。憲法の前文に全体の福祉や全体の幸福の促進を掲げる例は多い。しかし個人の権利になると、本家本元の合衆国憲法ですら「生命、自由、財産」となっていて、幸福が財産に差し変わっている。フランスの憲法でもドイツの憲法でも基本的人権に幸福という言葉は使っていない。GNH(国民総幸福)の提唱で有名なブータン王国が2008年に制定した憲法の英文版でも、life, liberty and security (生命、自由、安全)となっていた。生命、自由の次には幸福ではなく安全が置かれているのである(※2)。

私は憲法の専門家ではないから憲法自体の議論はこのへんにしておこう。ここで考えてみたいのは、幸福追求権の条文規定に含まれている興味深い問題提起だ。それは、個人の幸福と全体の幸福はどう関係するのかという問題である。両者の調和というか調整のために、幸福追求権には制限条項がつけられている。個人が好きなように幸福を追求してよいといっても、無制限というわけではありませんよというわけだ。この点では、現在の憲法も、自民党の憲法改正草案(2012年)も、ほぼ同型の言い方をしている。

【日本国憲法十三条】
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、最大限の尊重を必要とする。
【自民党憲法改正草案】
全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されねばならない。

現在の憲法では「公共の福祉に反しない限り」となっている。公共の福祉はpublic welfareの和訳らしい。welfareは貧困者への慈善などの意味が第一義。しかし幸福という意味でも使われている。つまり、個人の幸福は、公共の幸福に反しない限り尊重されるという意味にもなる。一方、自民党の改正草案は「公益及び公の秩序」となっていて、なるほど為政者としてはこちらの言い方のほうが取り締まりの基準がはっきりしてよいのだろう。いずれにしても、個人の幸福追求は、全体の幸福、利益、秩序などを乱す可能性があると考えられているのである。

これはむしろ常識に近い考え方だし、そういう側面があることを私も認める。しかし、幸福追求には私欲追求とは別の、社会的接触を喜ぶ傾向や利他的欲求の側面がある。それは近年の幸福度の実証的研究からも明らかになってきたことだ。一般に人は一人でいるときよりも誰かと一緒にいる時間帯のほうが幸福感が高い。またボランティアや慈善活動をしている人の幸福感は高いともされている。アメリカの最近の実験では、被験者を二つのグループに分け、一方は自分のために、もう一方は困窮者を助けるためにお金を使うよう指示された。その結果、後者のほうが幸福感が高まったという。

財産の獲得はしばしばゼロサムゲームになる。Aが一杯の水を独占すれば、Bは一杯の水を失う。+1−1=0。実は昔ながらの献身の物語もゼロサムになっていることが多い。仏典ジャータカ(釈迦の前世の物語)のウサギの話から、オスカー・ワイルドの「幸福な王子」まで、献身の物語は、自分をマイナスして他者にプラスをもたらすのである。地上の献身は天上で報われるという救いは用意されているものの、地上の世界での幸福はゼロサムなのだ。

しかし、幸福は本来ゼロサムではない。とくに生活水準が一定レベルに達した社会では、地上においても報われることのほうが普通になってくる。一人で抱え込んでいる限り幸福の総量は増えないが、与えることによって幸福はいくらでも増える。相手を幸福にすることが自分の幸福度を高める一番の近道だ。こうして、献身の物語の主人公の美しい心には遠く及ばないにしても、私たちは献身の価値に気づくのである。戦後、どちらかといえばゼロサム型の物資的豊かさを求めてきた日本人は、今ようやくそういう地点にたどりついたのではないだろうか。個人の幸福追求は、社会全体の幸福や秩序を作り出す原動力になりえるのだ。

※1:マッカーサー草案
http://home.c07.itscom.net/sampei/macken/macken.html
※2:ブータン王国憲法
http://www.bhutanaudit.gov.bt/About%20Us/Mandates/Constitution%20of%20Bhutan%202008.pdf
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