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戦争をしない国というブランド

私も編集に関与している『フロネシス』の最新号が発売された。今回のテーマは「ジャパン・クオリティ」。かつてジャパン・アズ・ナンバーワンと言われたような経済の勢いはないとはいえ、日本製品の品質の高さ、繊細さは健在だ。日本の良いところを見つけて伸ばすという発想に立てば、自動車や家電に続く新しい製品・サービスの開拓余地はまだまだあるーーそんな趣旨だ。

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浮世絵からオタク文化まで、日本の良さはしばしば海外から発見してもらえるよねというわけで、編集にあたっては海外からの評価を軸にした。とくに第二章では、海外の世論調査や各種指標の国際比較を洗い出している。そこで気がついたことを以下に書きたい。『フロネシス』ではビジネスの分野で日本の良さを考えたのだが、以下は政治の分野の話。もちろん個人の見解であることをお断りしておく。

BBC調査で「世界に良い影響を与えている国」はどこかという調査がある(※1)。世界25カ国2万6000人以上対象に個人的評価を聞くアンケートで、評価対象は16カ国とEU。自国評価は除く。アンケートでは「主に良い影響を与えている」「主に悪い影響を与えている」の両方を聞いているので、「良いー悪い」の差分で正味の評価とするという考え方もあるが、ここでは単純に「良い影響」という回答の高さで比較しよう。

過去5年の順位は次の通り。

2013年 1.ドイツ 2.カナダ 3.イギリス 4.日本 5.フランス
2012年 1.日本 2.ドイツ 3.カナダ 4.イギリス 5.中国
2011年 1.ドイツ 2.イギリス 3.カナダ 4.EU 5.日本
2010年 1.ドイツ 2.日本 3.イギリス 4.カナダ 5.フランス
2009年 1.ドイツ 2.カナダ 3.イギリス 4.日本 5.フランス

これでみると、ドイツが圧倒的に高いこと、次いで日本、カナダ、イギリスが高いことがわかる。中国がベスト5に一回顔を出しているが、いわゆる大国のアメリカ、中国、かつての大国のロシアは上位陣には入ってこない。1位・2位はドイツと日本の組み合わせが二回、ドイツとカナダの組み合わせが二回ある。

私が面白いと思ったのは、ドイツと日本の共通点だ。いずれも第二次世界大戦の軍事大国だったが、敗戦後は軍事力ではなく経済力で世界に存在感を示してきた。製品の品質がよい、戦争をしない(紛争に積極的に関与しない)の二点で「世界に良い影響を与えている」というイメージを持たれているのだと思う。逆にアメリカ、中国、ロシアが上位に入らないのは、軍事力のイメージが強いからであろう。

大戦後の日本の平和については、周知のように護憲派と改憲派の対立というのが長らくあった。護憲派は武力放棄を明示した「憲法9条」のおかげだと主張し、改憲派は「日米同盟」あってこその抑止力だという。しかし実際には、両方の組み合わせで日本の平和は守れてきたと思うのである。これはドイツと日本の共通点からみていくと明らかだ。ここは専門家の北海道大学教授の遠藤乾さんの言葉を借りよう。

「米国は米ソ冷戦のさなか、NATO(北大西洋条約機構)を通じて西欧の安全を保障し、東西ドイツを分断したままドイツの軽武装を支えていまし た。これが、ドイツが再び強大化するのを恐れていた周辺国に安心感を与えたのです。東側に対抗する米国にとっても、欧州統合は西欧の効率よい復興 につながる戦略的な利益でした。米国が『憲法9条』と『日米安保』によって日本を軍事的な脅威にせず、東アジアの経済復興を牽引させた構図と似て います。」(朝日新聞2014年5月1日)

大戦後にいったんは武装解除されたドイツと日本は、米ソ対立を背景に1950年代に再武装した。ただしドイツ国防軍も自衛隊も活動範囲は限定されていて、たとえば他国に派兵するなどは思いも及ばないことだった。ところが冷戦終焉で状況が変わった。とくに1991年の湾岸戦争で日本もドイツも派兵しなかったため、「金だけ出して人を出さない」と国外から批判された。以降、PKOなどの形でおそるおそる海外派兵を始めたのである。

このように、戦後日本の平和主義は必ずしも自らの意志と努力だけで作り出したものではない。また、日本には100箇所以上の米軍施設(※2)があって約10万人の米軍関係者(うち家族などを除く軍人は5万人)(※3)がおり、平和主義と言いながら米国の軍事パワーの傘下にあるのは明らかである。自衛隊の予算も国防費として世界で七番目(※4)だ。

それでも、憲法の制約があったために自衛隊の活動は制約され、自衛隊員は一人も戦争で死んでいないし、誰も殺していない。結果的に、日本は戦後の世界の中で戦争をしない、武力行使をしない国として良いイメージを形成してきた。これは長年にわたって蓄積した日本のブランドである。せっかく築いたブランドは大事にすべきではないだろうか。憲法9条も、自衛隊の存在が素直に読み取れる程度には変えたほうがよいと思うが、戦争放棄の文言はブランドのシンボルとして残したほうがよいと思う。

クラウゼビッツの『戦争論』に「戦争は外交の延長だ」という意味のことが書かれている。国の安全保障には、外交交渉というソフトパワーと武力行使というハードパワーの両極がある。えてして安全保障の議論は「攻められたらどうする」という一方の極端だけで議論される。現在の集団的自衛権や憲法改正の議論はその典型であろう。しかし、戦争をしない国というブランドを生かして、そもそも攻められないための工夫することも大事だ。複眼的な思考を忘れると、かえって国益に反すると思うのである。

※1 BBC調査
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
※2 防衛省ホームページ:在日米軍施設・区域別一覧 平成26年1月1日
※3 外務省ホームページ:米軍人等の施設・区域内外居住者の人数について(全国) 平成20年3月31日現在
※4 THE MILITARY BALANCE 2014(THE INTERNATIONAL INSTITUTE FOR STRATEGIC STUDIES )

追記20140709
7月1日、集団的自衛権行使を容認する解釈改憲が「閣議決定」され、メディアにさまざまな論が登場した。しかしこのテーマについて私の言いたいこと(言えること)は本文に尽きるので、特に加えたいコメントはない。ただ、第二次大戦の敗戦国という文脈では日独伊三国同盟の一角、イタリアについても触れるべきだったと後で気が付いたので補足しておきたい。大戦後、イタリアはイタリア共和国憲法11条に「戦争放棄」を定めた。ただし、歴代内閣は人道的介入や復興支援を理由に他国への派兵を繰り返してきたという(20140624朝日新聞)。BBC調査の選択肢にイタリアは含まれていない。もし含まれていたら、ドイツや日本と同程度かそれ以上の好感度を得ていたのではないだろうか。大戦後のイタリアは、食や芸術の国のイメージのほうが強いと思う。

追記20140815
日本の自衛隊員と違い、ドイツ、イタリアでは第二次大戦後も域外派遣で兵士が死んでいる。その追悼はどうなっているのだろうと思っていたが、ドイツ、イタリアの追悼施設の状況を紹介した朝日新聞2014年8月15日9面記事に触れられていたのでメモしておく。ドイツは国立中央追悼施設「ノイエ・ワッヘ」に、第一次・ニ次大戦で死んだ兵士(ナチス幹部除く)、民間人、ユダヤ人など虐殺された被害者を慰霊する。90年代、北大西洋条約機構の域外派遣に踏み出し、アフガニスタンでは昨秋の撤退までに55人が死亡。2009年、国防省敷地内に新たな追悼施設が造られた。イタリアはビットリオ・エマヌエーレ2世記念堂が第一次対戦以降、無名戦士を悼む施設に。第二次大戦後、イラクなど異国で死亡した兵士もここで弔われる。2003年のイラク戦争では33人死亡。
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