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従業員を幸福にする経営

パナソニック(旧松下電器)創業者の松下幸之助の名言に「松下電器は人を作る会社です。あわせて電気製品を作っています」というのがある。京セラ創業者の稲盛和夫は「全従業員の物心両面での幸福の追求と人類社会の進歩発展への貢献」を企業目的とした。

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この二人は有名な経営者であるが、従業員の幸福を経営の第一目的にすえて成功した経営者はそれなりにいるようだ。法政大学の坂本光司教授の書いた『日本でいちばん大切にしたい会社』はそうしたタイプの中堅中小企業に注目した本であり、経営の目的を以下の5つに定めている。

1 社員とその家族を幸せにする
2 外注先・下請企業の社員を幸せにする 
3 顧客を幸せにする 
4 地域社会を幸せに、活性化させる 
5 株主を幸せにする

オーソドックスな経営論では企業にとって最も重要なステークホルダーは株主なのだが、上記では順番の最初に従業員が来て、最後が株主になっている点がユニークなわけだ。

坂本教授は「人を幸せにしていれば結果的に業績も上がるはず」と言う。企業は慈善団体ではないし、そもそも利益が出なければ組織自体が持続可能ではない。従業員を幸せにすれば業績が上がるのだろうか。そうだとすれば、それはなぜだろうか。

従業員満足、顧客満足、企業業績

実は経営学では1990年代あたりから「従業員満足、顧客満足、企業業績」というアプローチでこの問題が研究されている。(※1)。たとえばタクシーや美容院、車の販売代理店のように従業員が直接顧客に向き合うサービスでは、従業員満足度と顧客満足度の間に関係がありそうだということが直観的に納得できる。私がこうした研究を最初に知ったのは十数年ほど前で、会社の同僚の阿部淳一さんに教えてもらった。彼自身がそうした解析を行う国内では先駆的なコンサルタントだった。「社員が喜べばお客さんも喜んで経営者も喜ぶ、いい話だねー」「そうでしょ。まあ、データで検証するには意外に難しいんだけどね」などという会話をしたのを覚えている。

実際、従業員満足と企業業績は相関していないという否定的な研究結果もあるようだ。また、相関関係はあっても因果関係は逆だという研究結果もある。つまり、従業員満足を高めると業績がよくなるのではなく、業績がよくなると従業員満足が高まるというわけだ(※2)。

しかしこれらは「従業員満足→顧客満足→企業業績」という仮説を全否定するものではない。こうした関係が成り立つ場合が多いというだけでも実践的には意味があるのだ。むしろ、どういう場合にどういう経路をへてどの程度成り立つのかという問題のほうが重要だ。

そういうスタンスでの研究では、ヘスケット他によるサービスプロフィットチェーンの図式がよく引用される。もとは1990年代に発表されたものだが、ハーバードビジネスレビューに2008年に再掲されたときは、「サービス業の収益性を高める方法として、シンプル、エレガント、現実的な方法であり、今日まで影響力もつベストセラー」と紹介されている。(※3)

このプロフィトチェーンによれば、サービス業では「内部サービス品質→従業員満足度→従業員の定着、従業員の生産性→外部サービス品質→顧客満足→顧客ロイヤルティー→収益増大、収益性」という連鎖が成り立つ。最後の収益増大は最初の内部サービス品質への再投資になり、以下好循環が形成される。

内部サービス品質は、従業員満足を高めるための施策だから、もしこのプロフィットチェーンが成り立つのであれば、経営にとって最も重要な施策の一つである。ヘスケット他は、「職場設計、職務設計、従業員の選抜と能力開発、顧客に仕えるためのツール」の4つを挙げている。

これはサービス業を対象としたものだが、製造業など他の産業でも似たような図式が成り立つだろう。また、近年では内部サービス品質としてのワークライフバランス(※4)や、一種の組織文化とも言えるエンゲージメント(会社の方向性に対する従業員の自発的な貢献意欲)(※5)の役割も注目されるようになってきた。

満足度から幸福度へ

さて、ここまで「満足」と「幸福」をだいたい同じような意味として書いてきた。多くの幸福度調査は、幸福度と満足度をほぼ同一視している。実際、調査を設計するさいには、何かに対する満足度という形で質問しないと明確な回答を得られない。たとえば職場の人間関係に満足していますか?なら答えられるが、職場の人間関係は幸福ですか?と聞かれてもちょっと困ってしまうだろう。一方、個々の要因の満足度を積み重ねが幸福度なのかといえば、それもちょっと違うと感じてしまうだろう。

おそらく満足度は個々の局面の判断、幸福度はトータルに判断をするときにふだわしいのである。となると、給与や達成感、職場の人間関係といった個々の施策も重要だが、「企業は従業員の人生全体にどんな影響を与えるか?」というトータルな観点からの施策が同じくらい重要だということになる。

人生全体にとっては、仕事と家庭の両立、経済的な豊かさと精神的な豊かさの両立が望ましい。過度な残業を減らし、出産や育児、高齢化などライフサイクルに応じて柔軟な働き方ができれば従業員の幸福度は高まるだろう。また、企業の社会的使命に共感できる従業員にとって職場は自己実現の場になるだろう。

このようにワークライフバランスやエンゲージメントは、従業員の幸福度向上にかかわるトータルな施策と言える。幸福度の高い従業員は、たとえ個々の局面で多少の不満があっても、自発的に生産性の向上に取り組むであろう。会社をよくすることが自分の人生をよくすることと自ずから一致するからである。

※1
清水孝「財務成果,顧客満足度および従業員満足度の関係性に関する検討」
稲垣公男「顧客満足度・従業員満足度・企業業績を高める人材マネジメント」
木戸貴也「従業員満足、顧客満足、企業業績の関係に関する一考察」
※2 従業員満足は本当に企業業績を高めるのか
※3 Putting the Service-Profit Chain to Work by James L. Heskett, Thomas O. Jones, Gary W. Loveman, W. Earl Sasser, Jr., and Leonard A. Schlesinger
※4 姉崎猛「ワーク・ライフ・バランスと企業業績の関係に関するサーベイ」
※5 タワーズワトソン・ホームページ「従業員の持続可能なエンゲージメント(会社への自発的貢献意欲の持続性)が業績に影響」



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