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国民幸福度は変えられる

先進国の中でも幸福度の低い日本と、世界一幸福度の高いデンマークの違いは何か。前回のブログでは、文化圏という考え方でその違いの一部を説明できることを書いた。文化は数百年とか数千年とかいう単位で形成されるものだから、それがすべてなら、幸福度のレベルを変えるのは絶望的に難しいことになる。

ユーロバロメータによる長期比較

こうした問題を正確に考えるためには、国別の幸福度を長期にわたり比較できるデータが必要だ。残念ながら全世界をくまなく長期にわたり比較できるデータは存在しない。前回紹介したワールドバリューサーベイも1990年代以降でないと比較できない。しかし欧州に限定すれば、ユーロバロメーターの生活満足度調査は1973年から追うことができる。これを分析した論文を見つけたので紹介しよう。

「Genes, Culture, Democracy, and Happiness/ Ronald Inglehart and Hans-DeterKlingemann」(『Culture and Subjective well-being』(2000年)所収)

原図では、デンマーク、オランダ、ベルギー、アイルランド、英国、スペイン、ドイツ、ギリシア、フランス、イタリア、ポルトガルの生活満足度調査で「とても満足」と回答した人の割合が1973年から1998年までグラフ化されている。ここでは、さらに最新の2013年のデータも加筆し、合計では40年間の変化を見渡せるようにしてみた。ちなみに最も古い1973年と最も新しい2013年の順位を書きだすと以下のとおり。

【1973年の順位】
1.アイルランド、2.デンマーク、3.ベルギー、4.オランダ、5.イギリス、6.ドイツ、7.フランス、8.イタリア(ギリシアとポルトガルはデータなし)
【2013年の順位】(カッコ内数字はEU28カ国全体での順位)
2013年には、1.デンマーク(1)、2.オランダ(3)、3.イギリス(4)、4.ベルギー(8)、5.ドイツ(9)、6.アイルランド(10)、7.フランス(13)、8.スペイン(15)、9.ギリシア(24)、10.イタリア(25)、11.ポルトガル(28)


uro図1n


これを見ると、国ごとに幸福度の上下動が見られるが、一部の例外を除き、順位が大きく入れ替わるほどの変化はない。特に、デンマーク、オランダ、イギリスが上位グループ、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアがそれに次ぐグループで、ポルトガルは最下位であるという順番は変わっていない。前回のブログで紹介した、ワールドバリューサーベイのデータに基づく文化圏と幸福度の関係、すなわちプロテスタント文化圏(デンマーク、オランダ)のほうがカトリック文化圏(フランス、スペイン、イタリア)より幸福度が高いという結果がここにも現れている。

政治と政策によって変動する幸福度

やはり国民の幸福度には、ある種のベースラインのようなものがありそうだ。それは遺伝的・文化的要因によるもので、少なくとも、数十年の単位では大きく変わらないのであろう。しかし一方で、仔細に見れば、数十年単位での変化が見られるケースもある。

まず悪い方向への変化について。アイルランドとベルギーは例外的に大きく順位を下げている。1973年には1位と3位だったが、1980年代にかけて大きく低下していった。アイルランドの場合は、イギリス領北アイルランドをめぐるテロ紛争が影を落としているのであろう。ベルギーはオランダ語系住民とフランス語系住民の対立(言語戦争)とその結果としての連邦制への移行(1993年)が影響しているのであろう。政治的な不安定は国民の幸福度に明らかに悪い影響を与える。

次に、良い方向への変化だ。デンマークは最初から高い生活満足度を示しているのだが、さらに40年間にわたって上がり続けていることに注目したい。

北欧は1970年代以降、福祉国家の道を歩み続けて来た。アングロサクソン流の自由主義的経済に対して、神野直彦先生流に言えば「分かち合いの経済」を志向してきた。映画『happy』で紹介された「コ・ハウジング」もその一つの現れだ。また1990年代、成長産業への労働移動が求められた先進国中で、北欧では労働者の社会保障にも配慮したフレキシキュリティ(柔軟性flexibilityと安全性securityを組み合わせた造語)政策を進めた。フレキシキュリティは当時のデンマーク首相が提唱したコンセプトだ。こうした政策努力が、デンマークのもともと高い生活満足度をさらに高めたに違いない。

日本とデンマークでは人口規模も文化的伝統も違う。幸福度(生活満足度)の単純な比較にはあまり意味はないし、同じ政策をとればうまくいくとは限らない。しかし、経済的に豊かになっていったにもかかわらず生活満足度がほとんど上がっていない日本に対して、持続的に上がっていったデンマークという比較には大きな意味があると思う。

政策努力によって国民の幸福度を上げることはできる。その効果は数年では現れないかもしれないが、数十年の単位では着実に現れる。勇気づけられる話ではないか。
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