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消費社会のハムレットに福音

To Do or to Have? That Is the Question.


言うまでもなくシェイクスピアの『ハムレット』のセリフ「To be oe not to be…」のパロディだ。コロラド大学のリーフ・バン・ボーベン(Leaf Van Boven)とコーネル大学のトーマス・ギロビッチ(Thomas Gilovich)共著の論文のタイトルである。かつて拙著で簡単に紹介したことがあるのだが、ここで詳しく紹介したい。たいへん面白い論文だ。消費と幸福の関係に興味ある人は読むと必ず参考になると思う。
http://psych.colorado.edu/~vanboven/vanboven/publications_files/vb_gilo_2003.pdf

モノからコトへ

消費社会論では、かねてから「モノからコトへ」ということが言われてきた。衣食住のベースが満たされ、耐久消費財がひととおり普及してくると、人々の欲望はモノよりもコトへ向かう。日本でいえば、高度成長期の終わった1970年代が転換点だった。やや脱線話だが、哲学者の廣末渉が「物的世界観から事的世界観へ」と提唱したのが1975年。学者といえども消費社会の一員だから、感度の高い人ほどいつのまにか大衆心理とシンクロするのだと思う。ちなみに「モノからココロへ」という標語もほぼ同時に登場した。世論調査で、モノの豊かさよりココロの豊かさを求めたいという人が多数派を占めたのは70年代末である。

ボーベンの論文(論文は共著だが以下では代表してボーベンのという)では、コト消費とモノ消費は「体験型消費experiential purchases 」と「物質型消費material perchases」と対比される。なぜコト(体験)なのか。モノに飽和したからコト(体験)へ向かうという言い方もできるのだが、アメリカの心理学では、後者のほうが「幸せになる」という仮説に立った研究が行われてきた。ボーベンは、従来の研究を踏まえながら、新たに4つの実証的研究を行って、仮説の正しさを確かめる。さらに、なぜコト消費(体験型消費)のほうが幸せになるのかという問題について考察する。

今回は4つの実証研究のうち最初の2つについて紹介しよう。どうやって検証したのかということも(私に読みとれた範囲で)紹介したい。それは実は専門外の読者に対してこそ重要な情報源だと思うからだ。納得度の高まることもあるし、腑に落ちないこともあるのだが、いずれにせよ、理解が立体的になる。自分自身がそうであった。

学生を被験者とした研究

そもそも、体験型消費のほうが物質型消費よりも人を幸せにするということは、どうやって確かめたらよいのだろうか。最もシンプルなアプローチは、人々に実際に聞いてみることだ。

第一の研究の被験者はブリティッシュコロンビア大学の在校生97人。体験型消費について聞かれるグループと、物質型消費について聞かれるグループの二つにランダムに分けられる。前者のグループに人たちは、「100ドル以上使った最近の体験型消費」について質問される。体験型消費とは、生活体験を得ることを第一の目的としてお金を使うこと。生活体験は、あなたが個人的に接する又はその中で生きる出来事又は一連の出来事とされる。後者のグループの人たちは、「100ドル以上使った最近の物質型消費」について質問される。物質型消費は、物質的な所有を第一の目的としてお金を使うこと、物質とは、あなたが取得しあなたの所有物として保ち続ける、形のある対象とされる。

被験者は、「その買い物について考えるとき、あなたをどの程度幸福にするか」「あなたの生活上の幸福にどの程度貢献したか」「その買い物は支払うに値したか」「別の何かにお金を使うほうがよかったか」といった質問に対して、9段階で評価して答える。たとえば、「全く幸福にならなかった=1点」から「きわめて幸福になった=9点」といったように。その平均スコアを出して評価する。

結果は次のとおりで、体験型消費のほうが幸福になっているし、お金の使い方としての満足感も高い。
・それについて考えることで幸福になる
  体験型7.51  物質型6.62
・生活の全体的な幸福に貢献
  体験型6.40  物質型5.42
・支払うに値する
  体験型7.30  物質型6.42
・別の何かにお金を使う方がよかった
  体験型3.77  物質型4.52

具体的に何を体験型消費とし、何を物質型消費とするか、回答者の記述で二つがオーバーラップしてしまうことはほとんどなかった。つまり、この区別は人々の日常生活に根差していることを示唆している。

体験型消費の具体例で最も多かった「(コンサート、スキ―スロープなどの)入場料・手数料」について、これを物質型消費として記述した人は1人しかない。逆に、物質型消費の具体例で最も多かった「洋服や宝石」について、これを体験型消費として記述した人は1人しかない。

美容スパ、美容製品:体験型4%/物質型2%
本、CD    :体験型―/物質型2%
洋服、宝石     :体験型2%/物質型62%
夕食         :体験型17%/物質型―
入場料、手数料  :体験型43%/物質型2%
テレビ、ステレオ、コンピュータ:体験型―/物質型26%
旅行         :体験型32%/物質型―
そのほか      :体験型2%/物質型6%

全国調査

上記は学生をサンプルとしているので、どのくらい一般的にあてはまるのか不明だ。男女、老若、黒人と白人、お金持ちと貧乏人、こうした違いをこえてあてはまる真実なのだろうか。

そこで二番目の研究では、無作為抽出の1279人のアメリカ人を対象にした電話アンケート調査をもとにする。年齢は21歳から69歳、時期は2000年の11~12月。回答者は、世帯内で第一次的に資産運用の決定権を持つ人。およそ180項目におよぶこの調査のほとんどは、資産運用における態度や行動に関するものというから、もともとは幸福度を聞くための調査ではなくて、相乗りさせてもらったのであろう。調査項目の終わりに近いところで、回答者は、「あなたの幸福を増大させるという目的で」生涯において行った「体験型」および「物質型」の消費について考えるよう質問される。「これら二つの消費について考えるとき、どちらがよりあなたを幸福にしましたか」。回答者は、「体験型消費」「物質型消費」「わからない(not sure)」「答えかねる(decline to answer)」のいずれかを選ぶ。

まず全体の結果はやはり予想通りで、体験型消費のほうが幸福になったという人が半数以上をしめた。

体験型消費のほうが幸福 57%
物質型消費のほうが幸福 34%

この調査の本来の目的である属性による違いはどうだろうか。年齢、雇用状態、人種、性別、婚姻状況、政治的意見、宗教、居住環境について分析されたが、大きな傾向に違いはなかった。いずれにおいても、体験型消費のほうが幸福になったという人が多いのである。

しかし、まったく違いがないということではない。女性、若者のほうが、そして田舎よりは都市や郊外に住む人の方が、若干ではあるが、より多く体験型消費のほうが幸福になったと答えている。

さらに、よりつっこんだ属性別分析からは注目すべき結果が出る。回答者の収入レベルは体験型消費を選ぶかどうかに明確に相関している。最も低い収入レベル(年収0-15千ドルと15―25千ドルのクラス)では、体験型消費と物質型消費はほぼ同じくらいの割合で選ばれている。収入が高くなるほど体験型消費を選ぶ傾向が高くなる。

exvsma.jpg


同様のパターンは教育レベルの違いでも現れる(教育レベルと収入レベルは強く相関している)。収入が低ければ、まずはベーシックなニーズを満たすことへの関心が高いから、物質型消費のほうが幸福になると答える傾向にあるわけだ。
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